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おすすめの本「東京に暮らす」

今年の1月の末(ちょっと前のことなのに、もうずっと前のようです!)
「ダウントン・アビー」の映画版を観ました。

「ダウントン・アビー」は、20世紀初頭のイギリスの貴族の館を舞台に描かれる悲喜こもごもの人間ドラマで、世界的に人気を博したテレビのドラマシリーズです。
テレビシリーズに第一話は、1912年のタイタニック号事故の一報が、屋敷に届れられるところから始まりました。

今回の映画は、そこから大分時間が流れています。第一話では馬車の時代だったのに、映画ではすっかりクルマが主流です。貴族のドレスもシャネルの洗礼を経て、大分シンプルになっていました。
「今は1927年ですよ」というセリフがありました。

「その頃、日本はどんなだったのかな?」
映画館を出てから、そんなことを思っていたら、買ったまま読まずにいた、この本を思い出しました。


「東京に暮らす」キャサリン・サンソム著 岩波文庫

おすすめの本東京に暮らすキャサリンサンソム

キャサリン・サンソムは、イギリスの女性です。
外交官である夫の赴任に伴い、1928年から1939年まで日本で暮らしました。
扉のポートレート写真からは、知的な中に温かみのある、落ち着いたひとのように感じます。


この本は、気の置けない家族や友人に語りかける調子で、自分が出会った日本の人々とその暮らしぶりをスケッチしたものです。
東西の文化の相互理解の助けになるように、との願いが込められていますが、「上から目線」や大袈裟なところがなく、さっぱりしたユーモアに包まれています。

描かれた日本人の姿は、生来陽気で、もてなし好き、宴会好き、
また、誇り高く、優雅で無欲。繊細で恥ずかしがり屋。
階級によって生活様式が区別されていないところが素晴らしい社会。


一方、家制度の重圧に個人、とくに女性が抑えつけられているという観察や、自分の意思をハッキリ伝達しない傾向、論理的合理的思考の厚みがない事へのもどかしさも指摘されています。


頁を繰るうちに、なんだか、曾祖母の若い頃を知る人から、初めて知るエピソードを聞かされているような、不思議な懐かしさと嬉しさがこみ上げてきて、大変楽しめました。


数日後、これまた手に入れてからしばらく放っていた「むかしの味」を取り出してみて、ハッとしました。

「むかしの味」池波正太郎著 新潮文庫


 

おすすめの本むかしの味池波正太郎

池波正太郎は、1923年生まれ。
つまり、キャサリン・サンソムが微笑ましく見つめた日本の子どもたちの中に、正太郎少年の姿があったかもしれない…のでした。
食べ物の味わいに、下町で過ごした子ども時代の思い出を重ねた「むかしの味」。

 

けっして教科書には出てこない、大文字では書かれない歴史に、2冊の本でちょっと違う角度から触れる、そんな面白さを味わいました。



この二冊、著者が絵も描くという点でも共通ですが(いずれの写真も表紙の絵は著者による)

「変化を認めて受け容れる」という態度においても、通底するものがあるように感じます。